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2014年11月14日 (金)

これからの大学図書館に期待するもの

 古代アレクサンドリア図書館の話にさかのぼるまでもなく、中世から現代にいたるまで世界史における図書館は知の拠点であり学術文化の中心を担ってきました。大学の社会的使命が研究・教育・社会貢献である以上、大学のシンボル的施設であり、地域社会における知的集積の拠点であるべき附属図書館はそれなりの社会的役割を担わなければなりません。そこで本学の新図書館をはじめとする建築計画の参考にしようと、近年新築された首都圏のユニークな大学図書館を視察してまいりました。視察した図書館は東京理科大学葛飾キャンパス、成蹊大学、東京経済大学にあるもので、それぞれ建物のデザインは魅力的で、利用システムは主たる利用者である学生へのメッセージが明確です。開架式の部分も広く学習図書館としての機能も充実しています。もちろん今はやりのラーニングコモンズは施設の中でももっとも目立つ位置におかれています。

 戦前からの伝統的な大学の図書館はおしなべて広壮な建造物に収まり、学術研究図書館として発達してきました。しかし多くの場合一般学生が利用しやすいものではありません。静かに本を読むところであって学生たちが集まって議論するなどと言ったらもっての他です。しかしいま新しく建設された大学図書館ではそのイメージが一変されようとしています。確かに図書館の機能も情報化の進展によってこの半世紀にずいぶん変わってきました。ことに学問分野によっても図書館に求めるものが違ってきております。自然科学系の研究者にとって必要な図書は学術情報の手段であり、電子媒体を通じてグローバルな学術情報が入手できればよいと考えますし、人文科学系の研究者も複写復刻の技術が進んで以前のようにマイクロフィルムに収めて資料をみるということは少なくなったと思いますが歴史や文学の原資料には直接触れたいと思うでしょう。私のように経済統計を利用するものならば、欧米諸国の政府統計や中央銀行の月刊の統計はインターネットで入手できますから、統計集を購入する必要がなくなりました(ただし長期の景気循環を分析するというと長期統計集が不可欠です)。

 しかし以上はあくまでも学術研究図書館としての役割です。学習図書館、さらには市民開放を重視する図書館としては、一定の基本図書が開架で配置される必要があります。本は手に取って見るということが大事です。本の意匠は読書への誘いの契機となります。東京理科学葛飾では理工系の学部学生・大学院生向けの基本的専門書が開架スペースに配置されていました。一例としてある講義のシラバスに掲載された文献をすべて陳列していました。東京経済大学では専門書に加えて教養図書も含めて、学長推薦図書などというものがありました(成蹊大学も同様で、どこでも学長の読書力が試されているのでしょうか)。どのようなレベルのどのような分野の図書を収書して、配列するかということはその大学の学生に対する教育目的のメッセージでありポリシーの一環です。同様に地域住民に対しても未来の大学生にたいしても青陵大学がどのようなレベルのどのような性格の知的拠点であるかを端的に示すのがこれからの図書館の役割ではないでしょうか。

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