« 本の香り (3) 教養としてのミステリー読書が好きでないあなたへー | メイン

2016年5月20日 (金)

本の香り (4)

Honnokaori4_2

 今日は、私のささやかなミステリー読書経験から大胆に絞り込んで、20世紀のハードボイルド探偵小説の不朽の名作に限定して紹介しましょう。

 第一はなんといってもダジール・ハメット『マルタの鷹〔改訳決定版〕』(ハヤカワ文庫)ということになるでしょう。マルタ島の秘宝をめぐる殺人事件、数人の男女の葛藤におけるハードボイルド探偵の自意識とそれゆえの宿命的な悲哀が描かれています。諏訪部浩一「『マルタの鷹』講義」研究社などという米文学研究者による本格的な解読もある位に後世にも注目されている作品です。ミステリーもこのような本格的な研究の俎上に乗ると、これは単なる「探偵小説」ではなく「恋愛小説」的面も備えた複雑な顔を持っている『文学』であるという領域に導かれることになります。ミステリーも一回ぐらいは原文でこのような丁寧な読み方をしたいと思います。ハメットには、このほかに代表作として『ガラスの鍵』(光文社文庫)がありますが、登場してくる探偵は私の好みではありません。しかし今では北欧ミステリーの最高の賞に「ガラスの鍵」賞がある位ですから今でもきっと評価は高いのでしょうね。

 第二はハメットが作った私立探偵像を継承し、ハードボイルド探偵小説をジャンルとして洗練させ、完成させたのがレイモンド・チャンドラーです。彼の小説に登場する探偵フィリップ・マーロウは今の日本でも良く知られています。なにしろダンディで知的な探偵像で、一番のお勧めは村上春樹訳『ロング・グッドバイ』(ハヤカワ文庫)です。「しっかりしていなかったら、生きていられない。優しくなれなかったら、生きている資格がない」というマーロウの有名なせりふは清水俊二訳『プレイバック』(ハヤカワ・ミステリー文庫)の最後に出てきます。

Powered by Six Apart